「よく云うだろう? 桜の樹のしたには 死体が 埋まっているってさ 。 」
丸い月が ぽっかりと 浮かぶ夜。
「夜桜を観にいこうよ。」
彼がそう云うので 僕らは出掛けた。
真っ暗なあたりには、散った花びらがあちこちに落ちていて
やけに白く光るから
僕は、それが石に見えなくもない と
彼に話した。
けれど彼は、それを雪みたいだという。
「なに するんだよ」
「雪っていったのは きみだろう」
「だからって投げるなよ!口にはいったじゃないか。」
「くやしかったら、」
「云われなくてもやるさ」
「 ッ 」
「仕返しだよ」
彼が
僕が
投げる花びらのカタマリは
それこそ本当に綺麗で
ぐる ぐる ぐる ぐる
吹かれて舞い上がった花びらたちが
あたまのうえで 廻ってる
「ねぇ」
「どんな死体だとおもう?」
この樹のしたに埋まっているのは どんな死体だと おもう ?
「僕は女のひとだと思うな。」
「何故?」
「だって綺麗じゃないか。」
雪白の着物をまとった その女のひとは
夜
樹のそばを通りかかったひとを呼び止めて、こう云うんだ
たすけてください
どうか たすけて
何故 此処にいて
どうして 此処から動けないのか
それが 思い出せないんです
きっと
本当は知っっているのだけれど
此処に とどまる 理由を
「本当は彼女だって知っている筈なんだ。」
「だって、」
「選んだのは彼女なんだからね。」
でも
だったら 何故
こんなにも 哀しいのかしら ?
「なんてね。」
「どうだい、ちょっとしたミステリーだろう?」
さっきから 一方的に話す彼を
僕は止めない
「でも、この話には続きがあるんだよ」
彼が話す この先を 僕は知っているから
まるで わかっていたように 答えた。
「・・・知ってるよ」
「話なんてものじゃなくて 」
「 いまのは全部 きみのことだ 」
丸い月が ぽっかりと浮かぶ夜
桜の樹のした 現れるのは 少年で
「僕を連れて行くの?」
なにも答えない、彼の
黙ったまま 人形のような彼の白い肌だけが目をひいて
「連れて行ってくれないの?」
「・・・きみはだめだよ」
どうして と問う僕に
彼は
「だって きみ、 理由がありすぎるじゃないか」
と云って微笑う。
これ以上 理由を増やして どうするんだい?
「今夜は楽しかったよ。ありがとう」
なんだ、ひどいな。
置き去りなんて。
大きな桜の樹のしたには 少年が埋まっているから
丸い月の夜は 気をつけなきゃいけない。
もし いつの間にか
少年と一緒だったのなら
それは