「なんて事してくれる」
日向暮れ気味の午後4時の、おそらくもうすぐ5時てまえ。
「ごめんなさい・・。」
どうして僕が謝る必要がある?こんな男にどうして。
そんなことを思いながら、僕はひたすら頭をうなだれる。
そうして「すいません」だの「ごめんなさい」だのと繰り返すのだ。
「謝られてもね、困るんだよ。」
男はそう呟くと、ポケットから煙草を取り出して火を点けた。
いいのか、生徒の目の前での喫煙は禁止じゃなかったのか。
あんた教師だろ。
「すいませんでした。」
「・・・どうして。こんな事したんだ?」
男が白い煙を吐き出す。
何故、顔を背けるのかが解らない。僕に煙を浴びせないため?
そんなところに気を遣うくらいなら、初めから吸うなよ。
「わざとじゃないんです。」
「・・・・・・・」
「ほんとうに、わざとじゃないんです先生。」
わかっているのか。
こんなにすまなそうな顔で謝っているじゃないか。
それとも生徒が困るのを見るのが楽しいのか?
あぁ、でも教師なんて皆サディストなんだっけ(そうだった)。
でも、この男の顔が楽しんでいるって?
怒っている風でもなく、むしろ無表情なんじゃないか。
やめてくれ。そんな風に見ないで。
それとも、わかっているのか。
あれがわざとじゃないって事を。
「私が聞きたいのは」
「はい」
「わざとじゃなくて、どうしてスケッチブックが燃やせるか、だ。」
夕日が差し込む教室。
校庭ではしゃぐ生徒たちの声が此処まで聞こえてくる。
いいな、もう帰るんだろうな。
この教室だけが別世界で、外はマトモな世界の様な錯覚を起こしそうだ。
僕もはやく帰りたいのに。
重い空気が、この美術教室中を覆い尽くしていて。
この教師を前にして立ち尽くしている僕は
石のように動けなかった。
美術室 1