猫 

 

 

 「また、いなくなった。」

 

 唐突にそう告げられた。でも、驚きはしない。この友人はいつだってそうだからだ。

 「・・・またか。今度はどいつだ、ノエルか?ハルか?」

 そう尋ねると、狩野はぶんぶんと頭を振った。

 「違うよ!いなくなったのはマツリだ!」

 

友人の家には4匹の猫がいる。ハル、マツリ、イワシ、ノエルという名前で、すべてかつては捨て猫だった。

それを狩野が拾ってきて、一緒に暮らしているのだった。

「ちょうど旨く、季節の名前がついているんだよ。」

 初めて狩野の家に遊びに行ったときのことだ。

家族を紹介するから。と云われ、真っ先に紹介されたのが、この4匹の猫たちだった。

拾った時季は4匹ともバラバラである。

彼いわく、拾った季節に関係する名前を付けていったら、ちょうど春夏秋冬になったという。

 「なんで、そんな変な名前にしたんだ。」

 4匹の自己紹介のあとで、僕はそう狩野に尋ねた。

ハルとノエルは問題ないが、マツリとイワシって、それは猫に付ける名前なのか。

 「マツリは、夏祭りの夜に拾ったんだ。」

 「イワシは、その日の夕飯が鰯だったから。秋らしいだろ?」

というのが理由らしい。そのときはセンスがあるとは思えなかった。

でも、そんな名前にも今ではすっかり慣れてしまった。

実際、僕が「イワシ」と呼びかけてもイワシは振り向く。



なにが原因なのかは分からないが、4匹はたびたび失踪する。

1日か2日であれば大して心配することもない。だが、たまに1週間から、長くて1か月も帰ってこないときがある。

不思議と、4匹同時に失踪したことは1度もない。

猫たちがいつ、どんなタイミングで何処へ行っているのか、僕にはわからない。

 

 「それで、いなくなってどれくらいになるんだ?」

 「もう2週間だ。マツリがそんなにいないなんて初めてだよ。」

 狩野は猫のことになると、異常なまでの心配性になる。

失踪1か月という最高記録を作ったのは、たしかノエルだった。

そのときも、やはり狩野は「2週間も帰ってこない」と僕のところへ相談にやって来た。

結局、ノエルはしばらくして何事もなかったかのように帰ってきたのだが、

それまでに僕は何度か、狩野に連れられてノエルを捜しに行かされた。

 「2週間も何処へ行っているんだろう。」

 「さぁな。案外そのへんにいるんじゃないか?」

 「食事は・・」

 「お腹が減ったら帰ってくるさ。」

 狩野は表情を曇らせて、すこしの間黙りこんだ。

 「・・・やっぱり捜しにいこう。放課後ひまだろ?」

 「ちょっと待てよ。僕もか?」

ちょうどそのとき、背後に気配を感じて僕はギョッとした。

振り向くと、つり上がった目が僕を一瞥し、こう云った。

 「あなたたち、さっきから喋りすぎです。」

 国見先生である。いまは古文の授業中であった。

 「随分と余裕があるのね。では石井君、問1の答えは?」

 突然当てられたって、解るはずがない。大体、なんで狩野ではなく僕のほうを当てるんだ。

 「・・・わかりません。」

 正直にそう告げると、国見先生はため息と呆れた視線を残して、教壇のほうへ戻っていった。






   
次項


















































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