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「お前のせいで怒られたんだからな。」



帰り道、嫌味たっぷりにそう云った僕だが、すぐに無駄だったことに気が付いた。

「うーん・・。」

 聞いちゃいない。

「そんなに猫が大事なのか?」



狩野は猫好き、というよりは完全に猫バカの部類に当てはまる。

ペットというよりは、彼にとって4匹は『家族』なのだ。

その心配性ぶりに呆れもするが、狩野の深刻そうな顔を見ると、すこし可哀相だなと思う。



帰り道をふたりで歩きながら、狩野も僕もマツリを目で捜していた。

猫が好みそうな場所は何処だろうとか、マツリがその辺を歩いていないかとか、

そんなことを思う。


「マツリ、何処行っちゃったのかな・・」


「狩野、見当ぐらいつかないのか。飼い主なんだから、適当な」

「違うんだ。」

「飼い主だからとか、違うんだ。そういうのじゃないんだよ。ええと、なんていうか・・」


一生懸命、頭でなにかを整理しているようだ。言葉に詰まり、眉間にしわを寄せている。

困り果てた狩野は、ついには小さく唸った。



「違うって、なにが?」


「上手く云えないんだけど・・」

「うん。」

「猫って、たまに飼い主の知らない顔を持ってるんじゃないかと思うんだ。」


なにを云い出すかと思えば、この猫バカ。


一瞬でも、狩野を可哀相だと思った自分を後悔した。



「なんだよ、そんなの当たり前だろう。猫なんて気まぐれで、まして失踪なんて

 企む奴らなんだぞ?」


 
 僕は呆れた。



「そんなこと云うなら犬だってそうなんじゃないのか?狩野、頼むから変なことで悩むな。」


「違うって!なんでそういうこと云うんだよ、石井は冷たいよ。」


僕の態度を見て、狩野は随分気を悪くしたようだ。

でも、どう考えても僕のほうがマトモなことを云ってるじゃないか。

そう思うと僕だって苛々してくる。

しかし、半泣きで不機嫌そうな顔の狩野を見たら、

意外にもそれが真剣な話だということに気が付いた。

狩野にとっては、という話だが。



「わかったよ。悪かった、聞くからちゃんと説明しろよ。」



ついに僕は諦めて、狩野の猫バカ話に付き合ってやることにした。

いくら真剣な話でも、狩野が語る猫の話題だ。

最終的に、後悔するのは分かっていたんだけど。



「・・うちの猫って、定期的に居なくなるだろ?」


「定期的かどうかは知らないけど、」

「定期的だと思うんだ、多分。」

「云ってる意味が解らない」


話しながら歩いているうちに、気づけば近所の神社を過ぎようとしているところだった。

僕は、向かう脚を神社に変え、こじんまりとした細い石段に腰掛けた。

あと3、4段昇れば鳥居が見えるだろう。並んで、狩野が腰掛ける。



「だからさ、僕らには解らない時季だとか法則があるのかもしれない。

 それに従って、皆居なくなるんだと思う。」


「法則ってどんな?」

「えーと、だからそれは解らないんだけど・・」


もう、いっそ違う話題に変えようかと思った。

何を云っているのか、相変わらず僕にはさっぱりだ。

しかし、そんなことを云ったら狩野は今度こそ泣き出すだろう。



「一体何の話をしてるんだ。もっと解りやすく云えよ。」


「じゃあ云うけど、彼らは2つの世界を持ってる。」

「はぁ?なんだよそれ」

「僕の知らない場所で、全然違う生き方をしてるんだよ。」


狩野があんまりにも真剣に語るので、笑うことも下手に反論することも難しい。

一体、何の話をしていたんだっけ。

家出中の猫、マツリの相談じゃなかったのか。



「余計解らないよ。大体、なんでそんなことが分かるんだ?」


「・・・・・姉さんに云われたんだよ。」


狩野には、3つ離れた姉がいる。

狩野が家族のことを話すことは滅多にない(猫は別にして)。

特に彼の姉に関しては、本人が喋らないので僕はあまりよく知らない。

何となく、仲が良さそうだとは思えないけど。

どうしてかっていうと、『姉さんは猫がダメなんだ』と狩野が前に話していたからだ。



「姉さんに、なに云われたんだよ?」


「二股≠セって」

「はぁ?」

「あんたは猫に二股かけられてるのよ≠チて云うんだ。

 定期的に、本当の飼い主の処へもどってるんだって。」


 
なるほど、そうかも。

なんて、いまの狩野の前で云ってはいけない。

案の定、狩野はそう云われたことに対して腹を立てているようだった。



「ひどいと思わないか?マツリがそんなことする筈ないじゃないか!

 ハルもノエルもイワシも、みんないい子なのに!」


「でもお前、さっき猫たちが全然違う生き方してるって云ってたじゃないか。」

「そうだよ!でも二股かけられてるとは云ってない!」


なんで僕が狩野に当たられなきゃならないんだ。


それにしても、彼の姉も二股≠ネんて、随分すごいことを云う。

猫バカすぎる狩野にそんなことを云うから・・



「だから、絶対そんなんじゃないことを証明する!

 マツリが何処に行っているのか、僕らで突き止めるんだ。」



・・
なんてことを云い出すんだよ。


「いま僕ら≠チて云っただろ!おい、なんで僕・・」


「頼む!石井しか頼める奴いないんだよ、協力してくれ。」

「・・・えー。」


結局こうやって、いつも僕は協力することになってしまう。

今回だってそうだ。



「・・わかったよ、やるよ。」



僕がそう云ったのを聞くと、狩野は急に表情を明るくした。


「そうか、ありがとう石井!!」 








   
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